街中を歩いていると、多くの人がスマートフォンを見ているのをよく目にします。総務省によると2023年ではスマートフォンの保有状況は20代~50代では90%以上、60代では80%以上、70代では60%以上、80代では20%以上となっています(1。ストレートネックとは頸椎が直線的に配列している状態のことを言い、スマートフォンやパソコンを不良な姿勢で使用することで生じるとされています。今回はストレートネックについて頸部の解剖、原因、症状、自分で行える運動や生活上の注意点について説明します。
頸部(首)の解剖
頸部は7個の骨と第1頸椎に支えられる頭蓋骨で成り立っています。頸椎は前後の動き(屈曲伸展)、左右への動き(側屈)、回転する動き(回旋)が可能です。各頸椎は構造上の特徴を持っていることから各頸椎の動きの範囲は異なります。このような特徴から頭蓋骨底を含んだ第1頸椎(環椎)~第2頸椎(軸椎)を上位頸椎と呼び、第3頸椎~第7頸椎を下位頸椎と呼び2つに分類されています。
脊柱は側面から見るとS字を描いていますが頸部は緩やかに前弯しています。
頸椎には横突孔と呼ばれる穴が開いており、ここを心臓から脳に血液を送るための重要な動脈の一つである椎骨動脈が通っています。
頸椎の中心は椎孔という穴がありそこを脊柱管(神経)が通っています。これらの神経は主に上肢に繋がっています。
頭蓋骨と第1頸椎の間の関節、第1頸椎と第2頸椎の間の関節を除く頸椎の椎間関節にも椎間板は存在していますがゼラチン質を含まないため腰椎の椎間板とは特徴が異なります(2。
環椎は頭蓋骨という大きな骨を支えなければなりません。頭蓋骨を安定させるために上位頸椎の関節を周りを靭帯が覆っています。また視覚や嗅覚、触覚に加え、手で物を操作するために頭部の可動性を確保しなければならず頸部の深層には頭長筋や頸長筋、斜角筋群、頭半棘筋、後頭下筋群など多くの筋群が覆っています。頭半棘筋、後頭下筋群の表層には頭板状筋が覆っていますが、さらにその表層は胸鎖乳突筋や僧帽筋などが覆っています。これらのように骨の周りには複数の筋の層で覆われています。
頸部の役割
頸部は体幹や上肢とを結び頭部を支え、胸椎や腰椎と共に脊髄(神経)を守っています。また、視覚情報や嗅覚、聴覚などの刺激に対して反応するために頭部を前後に曲げたり、伸びたり、回旋するという大きな関節運動を行う役割があります。これらのように頸部は頭部を保護する一方、大きな可動範囲を有するという相反する機能が備わっています。
原因
座位でスマートフォンやパソコンを不良姿勢で行うことで生じるとされています。
正常であれば頸椎は前弯していますが、頸椎が前方に動き(屈曲)、骨の位置関係(アライメント)に異常をきたした状態が持続することによって生じると考えられています。頸椎が屈曲した状態が続くと、頸部から背中にかけて伸筋群の過緊張が続きます。また、頭頸部の位置が前方にずれると身体はバランスをとるため、胸腰椎の後弯(前に曲がった状態)が強くなり、骨盤が後傾(後ろに傾く)します。すると肩甲骨は外転し前傾位となり肩周囲の後面の筋が高緊張状態となり胸側の筋群は短縮した状態となります。これらのように頸部の位置の問題によって身体のあらゆる部位まで症状が波及することが考えられます。先行研究では「頸椎前方では、表層に位置する胸鎖乳突筋や前斜角筋の活動性が増加し、深層の頭長筋、頸長筋の活動性低下が起こる。頸椎後方では、表層に位置する頭板状筋の活動性が増加し、深層の頭半棘筋の活動性低下が起こる。」とされています(3。
症状
・首や肩のコリ、痛み:頸部や肩甲骨周囲の筋の過緊張状態で生じます。
・頭痛:頸部や肩周囲の筋が過緊張になることで血流が圧迫されます。これにより脳への血液量が少なることで生じるとされています。
・上肢や手の痺れ:頸椎の神経は主に上肢へと繋がっていますので頸椎の神経が圧迫されることでこれらの症状が生じます。
・眼精疲労、めまい:眼に影響する自律神経系は後頭部から支配されており、症状が現れると考えられます。
対策(自主運動)
ストレートネックを予防もしくは症状改善を目的とした自主運動をいくつか紹介します。
- 僧帽筋(上部線維)の等尺性収縮後弛緩 ※写真は左右僧帽筋(上部線維)に対して行っています。
①写真の左側のように座位で良姿勢になってください。※良姿勢については「腰痛について:腰痛予防の対策」を参照ください。
②写真の右側のように肩甲骨を持ち上げて下さい。このとき肩の先を耳たぶに近づけるイメージをもって行って下さい。
③持ち上げた後、「8秒間」止めます。その後、肩の力をスッと抜いて元の位置に戻します。これを「3セット」行いましょう。
④肩周りを動かしたときに軽く動くようになったら上手くいっていると考えられます。
- 胸鎖乳突筋のストレッチ ※写真は右胸鎖乳突筋に対して行っています。
①写真の左側のように座位で良姿勢になってください。まずは胸鎖乳突筋を触って確認してください。場所は喉の横にある最も表層にある太い筋肉で片方の指ですぐにつかむことができます。ストレッチするときはこの部分を意識してください。
②写真の真ん中のように頭を左側に傾けてください(左側屈)。そのまま、頭部に左手を軽く当て、左側に軽く押します。その後、肩を下げて胸鎖乳突筋を伸ばします。
③次に写真の右側のように②の状態のままで、頭を後方に傾けます(伸展)。左手で頭部を後方に軽く押します。このときに胸鎖乳突筋が張ってくるのがわかると思いますので、伸ばされているのを意識して下さい。
④痛みのない範囲まで伸びたら「30秒間」止めます。これを「1セット」行います。ポイントとしてストレッチ中は胸鎖乳突筋が伸びている感じをイメージすることです。
- 頭板状筋のストレッチ ※写真は右頭板状筋に対して行っています。
①写真の左側のように座位で良姿勢になってください。頭板状筋は首の後ろ側についていますのでストレッチするときにはこの部分(右頭板状筋は首の右後ろ)を意識してください。
②写真の真ん中のように頭を左側に回しながら左側に傾けてください(左回旋・側屈)。そのまま、頭部に左手を軽く当て、左前側に軽く押します。
③次に写真の右側のように②の状態のままで、頭を前方に傾けます(屈曲)。左手で頭部を前方に軽く押します。このときに首の右後ろ(頭板状筋)が張ってくるのがわかると思いますので、伸ばされているのを意識して下さい。
④痛みのない範囲まで伸びたら「30秒間」止めます。これを「1セット」行います。ポイントとしてストレッチ中は頭板状筋が伸びている感じをイメージすることです。
- 眼球運動トレーニング(3
左右への眼球運動トレーニング(左写真):良姿勢で座位になります。正面を向いたまま両腕を左右に開き、両手の親指を伸ばしておきます(腕を拡げる範囲は首を動かさなくても注視できる範囲に調整してください)。首は動かさず眼球のみで左右の親指を交互に素早く見ます。
上下への眼球運動トレーニング(右写真):良姿勢で座位になります。正面を向いたまま両腕を上下に開き、両手の親指を伸ばしておきます(腕を拡げる範囲は首を動かさなくても注視できる範囲に調整してください)。首は動かさず眼球のみで上下の親指を交互に素早く見ます。
また、インターネット上では眼球運動トレーニング(ビジョントレーニング)の無料プリントを印刷できるようですので気になる方は検索してみてください。
これまで紹介したような運動を行う時間帯については特に決まりはないのですが作業の合間に行ったり、入浴後など比較的筋肉の柔軟性が保たれているときが行いやすいように思われます。
生活上の注意点
上述したような運動のほか、生活上で気を付けていただくことを紹介します。
- 普段から良姿勢を意識して座る
気づかないうちに体幹が前傾し、頭部が前方に突出するような不良姿勢になりやすいです。
- パソコン使用時の良姿勢
上述しましたように、集中していると不良姿勢になってきます。パソコンスタンドを使用したり、パソコンの下に台を置くなどしてモニターの高さを調整することによって良姿勢を保つことができます。
- スマートフォン使用時の良姿勢(3
右側の写真のように使用していない側の手を脇に入れることで、スマートフォンの高さが高くなります。
また生活のなかでこれらの姿勢を習慣化するように自分で写真を撮り、客観的に見ることも重要と考えられます。
終わりに
自主運動に関しては全て行わなくても、効果を実感できる内容のみでも自分のペースで行ってみて下さい。私もパソコン作業をすると「目の疲れ」や「めまい」に襲われます。1時間以上作業するときは休憩をするほか、ストレッチをしたり環境を工夫して予防していきたいと思いました。
参考文献)
2)山崎 敦,佐藤 俊輔ほか(監訳)(2014)『オーチスのキネシオロジー身体運動の力学と病態力学(原著第2版)』ラウンドフラット,p.487.2014
3)松村 将司:頸椎に対する理学療法.脊椎脊髄.32(4):450-458,2019.
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