栄養素が主に体内でどのような働きをするか、またその栄養素の種類についてまとめました。
体内での役割
【エネルギー(熱や力)源となる】
炭水化物、脂質、たんぱく質が該当します。炭水化物とたんぱく質は各々1gあたり約4kcal、脂質は1gあたり約9kcalのエネルギーとなります。生きた身体を動かす活動の源です。
【身体をつくる】
たんぱく質、ミネラル、脂質が該当します。筋肉や臓器、血液、髪の毛、爪、骨、歯など身体の組織を構成する成分となっています。
【身体の調子を整える】
ミネラル、ビタミン、ファイトケミカルが該当します。炭水化物、脂質、たんぱく質の分解や合成を手助けしてくれます。また活性酵素を除去しガンや生活習慣病などの予防にも役立ちます(2。因みにフィトケミカルとは植物の色素や香り・ネバネバなど、植物が外敵から身を守るために出される成分のことです。
栄養素とその特徴及び働き
【炭水化物】エネルギー源になり貯蔵される。糖質、食物繊維の総称
1.糖質
エネルギー源であり生命活動に欠かせない栄養素。過剰摂取は体内で脂肪となり蓄積されます。その他、組織の構成成分となります。脳細胞はブドウ糖(グルコース)が唯一のエネルギー源であり、人間のエネルギー源として最も重要です。
2.食物繊維
①水溶性食物繊維:消化速度の抑制、血糖の急激な上昇を防止、腸内の有害物質やコレステロールなどを吸着して排出する、便秘予防
②不溶性食物繊維:腸内の蠕動運動促進、腸内環境を整える、食事摂取後の満足度を上げる、便量を増大し有害物質(発がん物質を含む)と大腸との接触時間を短縮する。 →大腸がんの予防
【脂質】
エネルギー源になり貯蔵される、脂溶性ビタミンの吸収促進、体温保持。
【たんぱく質】
20種類のアミノ酸が鎖状に多数結合した高分子化合物です。これらが集まり身体を形成します。これらは全て遺伝子の情報に従ってつくられています。体内のたんぱく質は合成と分解を繰り返しています。分解されるとアミノ酸となり、アミノ酸は再利用されて必要なたんぱく質に生まれ変わり、古い組織が新しく作り替えられます。20種類のうち9種類は体内で作り出すことができないため食品から摂取する必要があります。働きとしては身体の組織を構築(筋肉や臓器、肌、髪、爪などを構成する細胞の主成分)、記憶力の向上、気分の向上、うつ症状の改善が挙げられます(3。
【ビタミン】
1.水溶性ビタミン
①ビタミンB1:炭水化物がエネルギーに変換されるために酵素が必要であり、ビタミンB1はその酵素の働きを促進してくれます。逆にビタミンB1がなければ十分なエネルギーを得ることができません。神経をコントロールしているのは脳です。ビタミンB1は脳の中枢神経や手足といった末梢神経にエネルギーが適切に供給されるように働きかけてくれます。これにより脳や手足の機能が維持されています。
②ビタミンB2:炭水化物や脂質、たんぱく質がエネルギーに変換されるのを手助けしてくれます。その中でも特に脂質がエネルギーとして利用されるのに深く関わっているようです。その他、皮膚や粘膜、爪、髪の保護として作用し、さらに成長を促進する働きや、過酸化脂質の生体への反応を抑制してくれる作用もあります(4。
③ナイアシン:ナイアシンはビタミンB複合体の一つです。ナイアシンは、炭水化物や脂質、たんぱく質が代謝されるのを手助けする補酵素です。またナイアシンはフレイル・サルコペニアにおいても注目されています。筋肉の収縮を起こすときにはエネルギーが必要ですがその時にATP(アデノシン3リン酸)が分解されます。ナイアシンが欠乏するとATP産生が低下するとされており(5フレイル・サルコペニア予防にはナイアシンの摂取が必要と考えられます。その他、高齢者に関してはビタミン(ビタミンB1,B12,ナイアシン,葉酸)の摂取不足により認知機能の障害をもたらすとの報告もされているようです(6。
④ビタミンB6:ビタミンB6は主にたんぱく質の代謝を手助けしてくれる補酵素です。食品から摂取したたんぱく質は胃や十二指腸、小腸の過程でアミノ酸に分解されて吸収されます。その後、このアミノ酸はたんぱく質に再合成されて身体の一部となります。この過程でビタミンB6の働きがなければたんぱく質の代謝が十分に促されません。その他の役割として、赤血球を作るために必要なヘモグロビンの合成を促進します。また、神経伝達物質であるセロトニンやドーパミン、ノルアドレナリンの合成を促します。さらに、心臓病の予防であったり大腸がんの抗がん作用について報告されています(7。
⑤ビタミンB12:ヘモグロビンが合成されるのを手助けしてくれます。ヘモグロビンは赤血球の中に存在していて、肺で取り込んだ酸素と結合し身体の各組織の細胞に酸素を運搬します。従って、ヘモグロビンが欠乏すると赤血球の数や形を変える可能性があり貧血になる恐れがあります。その結果、全身に酸素が行き渡らなくなり、めまいや立ちくらみ、息切れや動悸、疲れやすかったり、頭痛や肩こりが起こる可能性があります。その他、ビタミンB12は心臓病との関連も報告されており「葉酸とビタミンB12も冠状動脈性心臓病の保護因子であることが示唆された(8」としています。
⑥葉酸:葉酸と聞いたら妊娠中のお母さんが摂取するイメージがあると思います。理由は核酸(DNAやRNA)を合成するのに役立つからです。これにより胎児の脳や脊髄などの神経を発達させることができます。またDNAの合成により細胞の入れ替わりが進むと代謝が促され、血行も良くなります。その結果、美肌効果や発毛、抜け毛予防、白髪予防に効果があるとされています。その他、ビタミンB12同様にヘモグロビンの合成を手助けするほか、心臓病との関連(8や認知症との関連(9が報告されこれらの予防に関係しているようです。
⑦パントテン酸:パントテン酸の働きとして重要なものはコエンザイムA(CoA)の構成成分になることです。コエンザイムは補酵素であり補酵素は酵素が正常に働くために必要な非たんぱく質です。パントテン酸は脂肪酸の代謝やコレステロールの合成に関わっているようです。エネルギーの産生に必要な補酵素です。パントテン酸の単独で過剰に摂取した場合の危険性に関する論文は見つかりませんでした。
⑧ビオチン:ビオチンはカルボキシラーゼという酵素の補酵素として作用します。炭水化物や脂質、たんぱく質の代謝に関わっているようです。また、皮膚や粘膜保護の作用があるため皮膚の炎症や脱毛予防に効果があるとされています。ビオチンは通常の食事で必要摂取量を概ね満たしているため不足することはほとんどないとされています。
⑨ビタミンC:ビタミンCはコラーゲンの合成に関与し、たんぱく質を作るのに欠かせません。コラーゲンは結合組織の細胞同士をつなげる物質の主な成分となっています。主に皮膚や骨、骨と筋肉の繋ぎ目の腱に含まれています。したがって、コラーゲンが不足すると皮膚や骨、腱がもろくなり壊血病になりやすくなります。ビタミンCの効果としてはさきほどの壊血病の予防の他、LDL-C(悪玉コレステロール)の減少やHDL-C(善玉コレステロール)の増加に関連することで心臓病や脳卒中の予防が報告されています(10。
2.脂溶性ビタミン
①ビタミンA:ビタミンAは表皮(皮膚の表面)や粘膜にある細胞の成長を促進させます。これにより肌を守り潤いやハリを保ってくれます。また肌を紫外線から守ってくれますので細胞の破壊を防ぐことでシミやたるみの予防にもなります。さらに細菌感染の予防にも効果をもたらしてくれますので抵抗力を高める役割があります。その他、ビタミンAは目の網膜に重要なロドプシンというたんぱく質の成分になります。これにより光や色の情報を視神経を通して脳に伝えることができるのでうす暗い中でも物体を認識できます。したがってビタミンAが不足した場合、夜盲症になります。
②ビタミンD:カルシウムやリンといったミネラルは骨の形成に重要です。ビタミンDはそれらのミネラルの吸収に必要なたんぱく質の合成を促進してくれるため骨形成を促します。同時にカルシウムが骨に沈着するよう手助けしてくれるため骨を頑丈にしてくれます。また、ビタミンDは筋肉の合成を促進する効果があるとされているため筋力増大にも役立つとされています。さらに、魚類に含まれるビタミンD摂取量の増大は心血管系の病気とそれに起因する死亡率の低減が報告されています(但し過剰になると死亡率は上昇)(11。その他、ビタミンDの摂取量増大は肝臓がんの罹患リスク低減が報告されています(12。
③ビタミンE:ビタミンEは抗酸化作用があることで知られています。これにより心疾患の予防や血行改善・血圧降下作用があるとされています。また、脳機能に関してはアルツハイマー型認知症の遅延やパーキンソン症状の進行遅延が報告されています。さらに、筋肉量が減少するサルコペニアに対する効果も報告されているほか、肝組織を改善することや、抗不妊作用、歯周病予防や風邪予防など身体にとって多様な面で良い効果が得られるようです(13。
④ビタミンK:血液が凝固(固まる)するのに必要なのはプロトロンビンです。このときに補酵素として重要なのがビタミンKです。このようにビタミンKは止血作用があります。逆に出血した際にビタミンKが不足すると血液がなかなか止まりにくくなります。また、ビタミンKが不足すると骨の脆弱性が高まり骨の質が悪くなることが示唆されています(14。これによりビタミンKを摂取すると骨形成が高まり骨粗鬆症の予防につながります。その他、ビタミンK1を投与することで血管の弾力性を保つことが分かっています。これにより動脈硬化症の予防効果が期待できるとされています(14。
3.ミネラル
人を元素でみたとき炭素、水素、酸素、窒素が100%近くを占めています。栄養素としてのミネラルはこれら4つ以外の元素を指しています。これは体内に多く存在する多量ミネラル(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン)と、ごくわずかしか存在しない微量ミネラル(鉄、亜鉛、銅、マンガン、ヨウ素、セレン、クロム、モリブデン)に分けれており13種類存在しています。これら13種類の栄養素に関しては厚生労働省が健康増進法に基づいて食事摂取基準の対象として定めています。しかし、人にとって必要な栄養素はこれら13種類以外にも存在する可能性があり議論されているようです。
4.ファイトケミカル
植物の色素、香り、アク成分のことで、野菜、豆、果物に含まれています。私が調べた論文では「マンゴスチン」の果皮に含まれているα-mangostinやγ-mangostinが抗酸化活性などの生理作用でがん細胞を抑制する効果があることが報告されています(15。
まとめ
各栄養素とその特徴をまとめてみました。たくさんの栄養素があり、それぞれ身体にとって必要な成分であることや心血管病やがんなど病気の予防につながることも分かりました。限られた栄養素をたくさん取るのではなく、それぞれの栄養素をまんべんなく摂るのが理想だと感じました。なかなかこれらを全て摂取するのは難しいと思いますが、私の場合まず食材にどんな成分が含まれているのか理解することからはじめたいと思います。
参考文献)
1)吉田 企世子,松田 早苗:正しい知識で健康をつくる あたらしい栄養学.高橋書店
2)鎌田 徹,満下 淳地:活性酵素は癌化に寄与しうるか?ーNADPHoxidaseファミリーによる新しい癌化機構ー.信州医誌,53(5):265-270,2005
3)柳本 広二,中城 有香子,大和 恵子:「脳機能を高める分泌性タンパク質、脳由来神経栄養因子:BDNF」環境が制御する道具としての、気力と記憶.洛和会病院医学雑誌,Vol.28:7-24,2017
4)岡井(東) 紀代香,薙野 晴美,山田 香,et al:ビタミンB群の過酸化脂質の生成における抗酸化作用と酸化促進作用について.産業医大誌,28(4):359-368,2006
5)伊美 友紀子,吉岡 泰淳,川畑 球一,et al:ミトコンドリアでのエネルギー産生におけるビタミン・ミネラルの役割.甲南女子大学研究紀要Ⅱ,第15号:49-56,2021-3
6)太田 好次:ビタミン総論.ファルマシア,Vol.51 No.3:187-192,2015
7)加藤 範久:ビタミン B6 の疾病予防作用と必要量.ビタミン91巻 5・6号:382-384,2017
9)榎原 周平:葉酸の重要な役割.ビタミン,90巻 4 号:241-242,2016-4
10)糸川 嘉則:代替医療としてのビタミン・ミネラル.日本補完代替医療学会誌,第1巻 第1号:42-44,2004-2
11)津川 尚子:ビタミンD 栄養に関する最近の知見~ビタミンDの骨代謝調節作用およびそれ以外の生理機能と必要量~.オレオサイエンス,第14巻 第 12号:531-537,2014
12)国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト「血中ビタミンD濃度とがん罹患リスクについて」
13)阿部 皓一:X.ビタミン E の臨床研究の流れとトピックス.ビタミン,94巻 3号:166-173,2020-3
14)鈴木 啓章:ビタミン K の健康栄養機能に関する最近の知見.オレオサイエンス,第14巻 第12 号:555-561,2014
15)赤尾 幸博,土佐 秀樹:ファイトケミカルによるがんの予防.オレオサイエンス,第11巻 第5号:161-165,2011
コメント